アラフィフ旅マニア ブログ。神社仏閣、仏像、遺跡、御朱印、美術館と、ちょっと贅沢なリゾートをご紹介します。

『細雪』で谷崎が称えた、平安神宮の枝垂れ桜

587

毎年見ても見飽きないという、古都を代表する桜の名所

谷崎潤一郎の代表作『細雪』の中でも、得も言われぬ美しい情景のひとつ、平安神宮のお花見の場面は、私にとって永遠の憧れの場所で、なんども桜の季節にチャレンジしているのですが、生憎と今年も時期を外してしまいました。「いつかきっと・・・」とは思うものの、京都は桜のシーズンはずいぶん早めに宿をとらないと満室になってしまいますし、「今週見ごろだから」と思い立って出かけられるような距離に住んでいない限りは満開の桜に会うのは難しいかもしれませんね。

平安神宮の御苑の桜をみた瞬間を『細雪』ではこのように表現しています。

あの、神門を這入って大極殿を正面に見、西の廻廓から神苑に第一歩を踏み入れた所にある数株の紅枝垂、── 海外にまでその美を謳われていると云う名木の桜が、今年はどんな風であろうか、もうおそくはないであろうかと気を揉みながら、毎年廻廓の門をくぐる迄はあやしく胸をときめかすのであるが、今年も同じような思いで門をくぐった彼女達は、忽ち夕空にひろがっている紅の雲を仰ぎ見ると、皆が一様に、
「あー」
と、感歎の声を放った。この一瞬こそ、二日間の行事の頂点であり、この一瞬の喜びこそ、去年の春が暮れて以来一年に亘って待ちつづけていたものなのである。

引用:谷崎潤一郎『細雪』

このほかにも、平安神宮の花見を宴の頂点として、前日から翌日までの行動を事細かに記しています。

土曜日の午後から出かけて、南禅寺の瓢亭で早めに夜食をしたため、これも毎年欠かしたことのない都踊を見物してから帰りに祇園の夜桜を見、その晩は麩屋町の旅館に泊って、明くる日嵯峨から嵐山へ行き、中の島の掛茶屋あたりで持って来た弁当の折を開き、午後には市中に戻って来て、平安神宮の神苑の花を見る。(中略)彼女たちがいつも平安神宮行きを最後の日に残しておくのは、この神苑の花が洛中における最も美しい、最も見事な花であるからで、圓山公園の枝垂桜がすでに老い、年々に色褪せて行く今日では、まことにここの花を措いて京洛の春を代表するものはないと云ってよい。

引用:谷崎潤一郎『細雪』

最後に下線を引いた部分「まことにここの花を措いて京洛の春を代表するものはないと云ってよい。」は、谷崎潤一郎自身の評価とみてもよさそうです。

ほらほら ! あなたも日本を代表する、美意識の高い文豪が絶賛する「平安神宮の枝垂れ桜」。見たくなりますよね?

さらに言うならば、私の最愛の作家である川端康成さんの名作『古都』でも、平安神宮の桜は絶賛されています。川端康成も谷崎潤一郎も、ともにこの紅枝垂れ桜を「古都を代表する桜」に任じているんですね。

みごとなのは、神苑をいろどる、紅しだれ桜の群れである。今はまことに、ここの花をおいて、京落の春を代表するものはないと言ってよい。千重子は神苑の入り口をはいるなり、咲き満ちた紅しだれ桜の花の色が、胸の底にまで咲き満ちて、「ああ、今年も京の春に会った。」と立ちつくしてながめた。

引用:川端康成『古都』

それでは、本日は写真多め。私と一緒に平安神宮を一周してみましょう。

アクセス

私が宿泊していたサクラテラスザ・ギャラリーからは、八条口から中央通路で駅舎内を抜け、烏丸中央口から出てすぐにある市営5番バスに乗車。約30分で「岡崎公園 美術館・平安神宮前」バス停で降車します。

この岡崎エリアは文教地区として名高く、周囲には京都国立近代美術館や京都市京セラ美術館、京都府立図書館の瀟洒な建物が並びます。

写真の大鳥居を抜けて、北に向かって進みましょう。

大鳥居そばの桜の樹は満開でした。これは期待できるかも・・・!?

平安神宮の敷地に入り、大鳥居を振り返りました。

平安神宮の社号碑です。

平安神宮の御祭神は、桓武天皇と孝明天皇。平安神宮は意外と新しく、平安遷都1100年を記念して明治28年3月15日に創建されました。第50代桓武天皇をご祭神なのは、平安遷都をなされたからですね。

平安神宮はとても広いので、歩いても歩いてもなかなか門までたどり着けません笑。

手水舎

応天門の手前に手水舎があります。

應天門

平安京の時代に、應天門に掛けられていた扁額の文字は弘法大師空海の筆によるもので、掛けられたのちに「点」がひとつ抜けていることに気が付いた空海は、筆を投げて「点」を書き加えたのだそう。これが「弘法も筆の誤り」の故事の由来だとか。

應天門の説明書きに曰く
国指定重要文化財
應天門は、平安京大内裏の正庁朝堂院の南面正門で 、延暦十四年(795)に造営された鴟尾を置く二層碧瓦葺の建物で左右両廊から栖鳳・翔鸞の二楼につながっていた。
この門は、平安遷都千百年にあたる明治二十八年に往時の様式を復元し、平安神宮の 「神門」として建造されたものである。

3月27日~4月11日まで、限定で「春の特別朱印」を授与いただけるようです! 2種類あるけれど、どちらをいただくか悩みます・・・そういえば、以前は御朱印は一律300円のイメージでしたが、最近500円が増えてきましたね笑。

外拝殿(太極殿)

應天門から外拝殿(太極殿)を臨む。

平安神宮はとにかくお庭が広い! 私が一番印象に残っているのは、このお庭で毎年開かれる「薪能」です。これは本当に素晴らしいので、是非とも体験していただきたいですね。毎年6月初めに開かれるのですが、今年(2021年)は生憎と中止のよう。。。来年以降開催されるとすると、このページに案内が出ると思うので、チェックしてみてくださいね。

平安神宮見どころ・季節の便り」はこちらから

外拝殿(太極殿)は、桓武天皇が開かれた当時の平安京の正庁、朝堂院が約8分の5の規模で再現されているものだそうです。

こちらで御朱印がいただけますので、参拝されてくださいね。平安神宮は、神苑入場のみ有料なので、太極殿参拝には無料です。

いざ、神苑へ

太極殿の左に、「神苑入口」と書かれた看板があり、たくさんの人々がこの入り口に吸い込まれていきます。

神苑入苑には大人600円、子ども300円の拝観料金がかかります。また、開門時間も季節により変わりますので、こちらを参考に参拝されてくださいね。

平安神宮神苑拝観について

南神苑

じゃじゃじゃーん! これが『細雪』に登場する、「八重紅枝垂桜」です! あああ・・・葉桜となってしまっていますね笑。

多分、ここが心眼で見ると「紅枝垂桜が満開」に見えるはず・・・!笑。

平安神宮の神苑案内図をみると、園内のほとんどに桜が描かれているのがわかりますね。

「古都」のヒロイン、千重子がほめたたえたのはこのあたりでしょうか?

西の回廊の入り口に立つと、紅しだれ桜たちの花むらが、たちまち、人を春にする。これこそ春だ。垂れしだれた、細い枝々のさきまで、紅の八重の花が咲きつらなっている。そんな花の木の群れ、木が花をつけたというよりも、花々をささえる枝である。「ここらでは、この花が、うち一番好きやの。」と、千重子は言って、回廊が外にまがってるところへ、真一をみちびいた。

引用:川端康成『古都』

日本最古の、京都電気鉄道電車

日本最古の電車も展示してあります。こちらは明治28年1月31日に日本最初の交通輸送電車として、京都電気鉄道が運行したものだそうです。

ほんの少しだけ、花びらが残っていました。この蒼天のもとに見る紅の雲が見たかった・・・!

「花菖蒲」がもうしばらくすると満開になりますね。

西神苑

差し込む日差しに、苔がキラキラと煌めいていました。

東神苑へと続く、小径。さわさわと水音が響き、心が落ち着きます。

小径を抜けると見えてくる、大きな池。

こちらには著名な「臥龍橋(がりゅうきょう)」があります。

臥龍橋…天正年間に豊臣秀吉によって造営された三条大橋と五条大橋の橋脚が用いられています。この橋を渡る人には、「龍の背にのって池に映る空の雲間を舞うかのような気分を味わっていただく」という小川治兵衛の作庭の意図が織り込まれています。

引用:平安神宮公式HP

私もカメラを構え、落ちないように一歩一歩踏みしめるようにして歩いたこの飛び石を、ヒロイン千重子もわたっている描写があります。

真一は先に立って、池のなかの飛び石を渡った。「沢渡り」と呼ばれている。鳥居を切ってならべたような、円い飛び石である。千重子はきもののつまを、少しからげるところもあった

引用:川端康成『古都』

東神苑

臥龍橋を過ぎると、たくさんの立派な松の木が繁るエリアへ進みます。

その先には東神苑の栖鳳池が広がり、尚美館や泰平閣(橋殿)、さらに先には借景として東山の華頂山が見えます。

池の周囲にはまだ少しだけ桜が残っていました。

尚美館の周囲にある桜も見事だそうですよ。

左が橋殿の名を持つ、泰平閣。右が尚美館です。ここからだと、手前に松林、開けた池に美しい建物・・・と良い写真が撮れるフォトスポットです。

泰平閣(橋殿)

大学生の頃から、この泰平閣に来ると鯉の餌を買って、時間を忘れてゆったりと過ごしてしまいます。橋ですが座れる欄干もあり、穏やかな時間が流れる、気持ちの良い空間です。

これが、千重子や雪子が愛した桜の色・・・繊細な美しい桜色ですね。

次回は「上賀茂神社の斎王桜」です。

京都・滋賀Contents

01-石清水八幡宮 京都駅からのアクセス
02-「勝」の石清水八幡宮 昇殿参拝体験記
03-石清水八幡宮摂社、末社
04-石清水八幡宮帰路と展望台
05-京都伏見「鳥せい」本店でランチ
06-雨の伏見散策
07-史跡 寺田屋と外観
08-今も宿泊できる!?伏見 寺田屋内観
09-サクラテラスザ・ギャラリーNorth施設紹介
10-サクラテラスザ・ギャラリーSouth施設紹介
11-サクラテラスザ・ギャラリー スーペリアダブル宿泊記
12-サクラテラス・ザ・ギャラリー朝食
13-サクラテラス・ザ・ギャラリー夕食
14-日吉大社へのアクセスと 西本宮参道
15-日吉大社 西本宮 参拝記
16-日吉大社 宇佐宮 参拝記
17-日吉大社 白山宮 参拝記
18-日吉大社 三宮遥拝所と神輿収蔵庫
19-日吉大社 樹下宮、東本宮 参拝記
20-日吉大社 東本宮 参道
21-比叡山延暦寺 坂本からのアクセス
22-比叡山延暦寺 東塔エリア 参拝記
23-比叡山延暦寺 横川エリア 参拝記
24-比叡山延暦寺 西塔エリア 参拝記
25-早朝の東寺散策 その1
26-早朝の東寺散策 その2
27-メルキュール京都ステーション ホテル施設紹介
28-メルキュール京都ステーション ワーケーションスペース
29-メルキュール京都ステーション 宿泊体験記
30-メルキュール京都ステーション 朝食
31-メルキュール京都ステーション トラットリアM Kyoto
32-『細雪』で谷崎が称えた、平安神宮の枝垂れ桜
33-上賀茂神社の斎王桜
34-西本願寺 お西さんを知ろう!
35-西本願寺 早朝参拝のススメ
36-二条城 夜桜ライトアップーNAKED FLOWRS 2021ー桜ー 世界遺産・二条城
37-下鴨神社(賀茂御祖神社) 参拝記
38-京都グルメ編-出町ふたばの豆餅と加茂みたらし茶屋の加茂団子
39-京都グルメ編-焼肉 弘商店 京都駅西
40-京都グルメ編-中村藤𠮷のきつね抹茶うどんセット
41-京都土産2021春

関連記事

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。